きみのためになら







携帯のスケジュール帳をなんとなく眺めていたら、来週の火曜日に「堀田くん誕生日」と書いてあった。
以前堀田くんに聞かれたときに、ついでに石神も確認してスケジュール帳に入力したのだった。
自分の誕生日に、堀田くんはめいっぱいお祝いをしてくれた。
その手前、なにもしないわけにはいかないよなあ、としばらく天井を見つめて、すぐに考えるのをやめた。




誕生日になにが欲しい?
とストレートに聞くと、堀田くんはなんでもいいです、なんてはにかむ。
ひとつ年下の恋人が考えていることはいつもわかりそうでわからない。
だから率直に聞いたっていうのに、肩すかしの回答だ。
あれが欲しいとか、何がしたいとか、もっとこうしろとか、
あまり自分の要求を明らかにしない遠慮がちなところもまた堀田くんの魅力ではあるのだけれども、
今回ばかりは困ってしまった。




それで丹さんと堺さんが話してるとこに割り込んで、
堀田くんの誕生日になにあげればいいと思う? と聞くと、ふたりは顔を見合わせる。
「それはお前が考えなきゃいけないんじゃねぇの」
「俺たちに聞いて楽しようとすんじゃねぇよ」
「そんな冷たいこと言わないでよ」
冷たくねぇよ、と言うのが堺さんで、むしろ優しいだろ、と畳み掛けるのが丹さん。
このふたりはあてにできないようだ。
どうしようかなあ、困ったなあ、堀田くんの誕生日。




そこいらを歩いている若手に話しかけてみる。
「なーお前ら」
一斉に振り返ったのは、左から椿、宮野、世良、赤崎という顔ぶれ。
まっさきに、どうしたんスか? と世良が答えてくる。
「好きな子の誕生日ってふつうなにするもん?」
少々面食らったように顔を見合わせている、ちょっと唐突すぎただろうか。
赤崎があからさまに顔をしかめる、なんて感じの悪いやつなんだお前は。
「おれはスペシャルなデートをセッティングしたいッス!」
したい、と言うのは堺さんと付き合いたての世良。
「おれは……えっと、一緒に温泉に行って、プレゼント渡しました」
こないだのコシさんの誕生日に、ジーノと3人で熱海行ってたもんな、椿。
「さりげなくリサーチして欲しいもの聞き出してあげましたけど……」
おお、宮野の答えはわりと現実的だ。でもさりげなくって何?
すごく期待していたわけではないけれども、なんだかあんまり参考にならない答えしかない。
ふう、とため息をひとつついて、ありがとな、と背を向ける。
「あのっ」
慌てた椿の声に、進めかけた足を止める。
「おれは一緒にいてくれれば嬉しいと思うッス」
なにそのかわいい答え。思わず笑って、もう一回ありがとうなと言って、クラブハウスをあとにした。




一緒にいてくれれば嬉しい、だなんて、堀田くんはおもってくれるだろうか。
なんとなくそういう気がするのだけれど、でも、もっと特別にしたいって思う。
だって、堀田くんの誕生日なのだから。
家に帰って、ベッドに寝っころがって適当に雑誌をめくる。
何をあげたら喜んでくれるかな。どこに連れてったら、見たことない笑顔がみられるかな。
パリのカフェ事情なんていいから、堀田くんの欲しがってるものでも載せてくれればいいのに。
ふと、料理の記事のなかの、オレンジ色の鍋に目が止まる。
ワンランク上の煮込み料理はこの鍋から、とかいう、鍋の広告とのタイアップ記事みたいで、鍋の詳細が載っている。
堀田くん、よくごはんを作ってくれるから、こういうのいいんじゃないのかな。
ころんとした、愛らしいのに無駄のないフォルムも、なんだかとっても堀田くんに似合う気がするし。
さっそくネットで調べてみる。似たような鍋はいっぱいあって、どれも高機能で便利そうだ。
ただの鍋なのにこんなにいろんな意味を持ったものがたくさんあるなんて今まで知らなかった。




結局、最初に雑誌で見たのと同じ鍋を注文した。
便利なもので、もう週末には届く。堀田くんの誕生日に間に合ってしまう。
いいかんじだぞ、とご機嫌で練習に向かう。
堀田くんの誕生日当日は、午前中に練習があって、午後はずっとフリーだ。
デートとかできちゃうんじゃないだろうか、デートするならどういうコースだろうか、
どこかいつもよりちょっといいところで食事して、家に連れてきて、
軽く酒でも飲みながらプレゼント渡せばいいかな。
どこの店がいいかな、堀田くんなら和食かな、
それともこないだ近所に見つけたスパニッシュバールでもいいかな。
にわかに楽しくなってきて、自分でもしらないうちににやにやしていたらしく、
堺さんに頭をはたかれる。
「なに笑ってんだよ、気味悪ィ」
「そういえばお前、堀田の誕生日プレゼント決まったのかよ」
丹さんに聞かれて、まあねー、と答える。
当の堀田くんは、話題にされているとも知らずに、コシさんとしゃべりながら練習の準備をしている。
「まさか『プレゼントは俺』とかそういう寒いのじゃないよな」
丹さんが心配そうに言うので、なにそれ、俺そんなこと言わないけど! と反論する。
「悪ぃ悪ぃ。石神なら言うかなって」
「いかにもいいそうだよな」
「ちょっとそれどういう意味」
信用ないなあ、と唇を尖らせる、でもふたりとも目が笑っているから、からかわれているだけだ。
ほんとはたぶん、ふたりとも心配してくれていたのだろう、ちょっとほっとしているようにも見えた。




「ガミさん」
練習後、堀田くんに話しかけられる。
「俺の誕生日、何くれるんですか」
「えー」
案外、堀田はふつうの調子で聞いてくる。
もっと照れたり、そわそわしてくれたりしてもいいのに。
「ないしょだよそんなの! 当日までひみつにするから」
「じゃあ、俺楽しみにしてますから」
そう言って含み笑いの堀田くんは、なんだかとっても魅力的で、鳩尾のあたりがきゅうと痛んだ。
「うん、期待してていいよ!」
大きな声が出てしまう。それくらい勢い込んでいる。
堀田はちょっと驚いたみたいに目を丸くして小さく笑った。
なんとしてでもこんな堀田を驚かすくらいの、忘れられない誕生日にしてやるんだと思うと、
自分のほうこそわくわくして腹の底が熱くなるようだった。








2011/12/22
2011/12/7の日記より。