さかゆめ







欲望の吐け口をぎゅう、と強く掴まれて堀田は息をのんだ。
セックスの最中にあってはならないほどの、明らかに快楽ではなく痛みを与えることを目的とする強さだった。
なにせそこは男の急所だ。
やさしく触れられれば気持ちよくもなるけれども、痛みにはめっぽう弱い。
「ひっ……ぐ、」
堀田が苦痛に顔を歪め、喉を鳴らしても、石神は一向におかまいなしといった体で、
かまわずに堀田の身体をいじくりまわしている。
鎖骨のくぼみを指でなぞられるとぞくぞくしたが、次の瞬間、喉仏に手が伸びて、
押しつぶされやしないかと恐怖で身がすくんだ。
「あれ? 堀田くん、怖がってる?」
石神は、おそらくは返事を求めていない、わかりきったことを聞いた。
すこし口元が笑っている。
石神はたまにこういうふうに、自分は服も脱がず、興奮してるんだかしてないんだかもわからせずに堀田に触る。
人体実験みたいだと堀田は思う。
解剖台の上に仰向けに載せられて、一つひとつ暴かれていくのだ。無邪気に、残酷に。
やさしくされたいし、きもちよくもなりたい。でもこの場で言うことができない。
「ね、次はどうしよっか」
するすると首を撫でる石神の手が恐ろしい。
堀田は返事をすることもできずに、ただふたつの瞳に天井と、
その手前で焦点が合わずぼんやりと浮かぶ石神の顔を映していた。
結局最後まで達することはなく、いつどうやって意識を失ったのかも覚えていない。




その夜、堀田は夢を見た。石神に抱かれる夢だった。
夢の中の石神は信じられないくらいやさしい。
髪から耳のうしろを通って首、背中と撫でられると、それだけでぞくぞくして全身がとろけてしまいそうだった。
「堀田くん、きもちいい?」
石神が耳元にささやきかけてくる。
くすぐったくて、ふわふわするから、堀田は甘やかに微笑んでみせた。
石神はそれを見ていとしげに目を細め、堀田の額の、汗ではりついた前髪をはらってくれる。
照れくさくて、うれしくて、石神の首にしがみつく。
ベッドのスプリングをきしませて、ふたりの男の肌と肌とが重なる。
達するのはほとんど同時だった。
そのとき、ふたりは指と指とをからめるようにして手をつないでいた。
あたたかくてきもちいい。
まぶたの裏で真っ白く星がまたたいていた。




翌朝起きたとき、隣に石神はいなくて、堀田は自分のベッドでひとりだった。
あの夢みたいなセックスは、ほんとうに夢のなかでの出来事なのだと知った。
クラブハウスに行くと石神は何食わぬ顔で練習に参加していた。
夢の中ではじっとりと湿った手のひらで堀田を愛撫していた。
現実の昨日の夜は、乾いた手のひらで堀田を辱めた。
今の彼の手のひらがどうなっているのか、堀田には確かめることができない。




練習が終わったあと、石神がこちらをちらりと見たのがわかった。
これから近寄ってきて、話しかけられるのだ、と思った。
堀田はそれを避けるようにして堺に話しかけた。
「堺さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「何だ」
「パソコン買い換えようかと思うんです。この前、新しくしたって言ってませんでしたっけ」
堺は買い物をする前にとことん調べて吟味するタイプだ。
それを知っていて話しかけた。
当然、彼の説明は長い。
堀田は半分も聞いていなかった。
ただ、石神がこちらをまた見たな、と、視界の片隅で確かめて満足していた。
堺の長い説明を聞き終えて、駐車場へやってきたとき、石神に捕まった。
石神はすこし機嫌が悪くて、何も言わずに堀田の手を引き、自分の車の助手席に座らせる。
車の中でもひとこともなかった。
勝手に堀田のマンションの駐車場に車を停めて、それから助手席の堀田の唇に乱暴に噛みついてくる。
ひどいことをされる、そういう予感があった。
そして今夜はとてもいい夢がみられるだろう。
それを思うと、腹の奥がざわついて、たまらなく楽しい気持ちになるのだった。








2012/2/26
2012/1/12の日記より。