これ以上、まだもっと







クラブハウスの駐車場のところに猫がいた。黒いのと、白くておでこに斑点があるのと、三毛猫。
隣の堀田がちらちらと気にするので、石神は猫だね、と話しかけた。
「かわいいですね」
「さわる?」
「触らせてくれますかね」
「どうだろ。このへんの猫なら人に餌とかもらってて慣れてそうだけどね」
話しながら近づいても、猫は逃げなかった。堀田がしゃがみこんで猫のアゴを撫でる。
石神のほうにも、三毛猫がするりと寄ってきて、足に頭を擦りつけるようにしてにゃあ、と鳴いた。
「ごめんなー、今日おれ食べ物とかもってないや」
猫に向かって言っても、離れていかずに石神の足のまわりをくるくると回っている。
「おれもです。おなかすいてるのかな」
堀田が申し訳なさそうにしている。
猫はもうすっかり堀田に安心したのか、腹までみせて撫でられている。
いいな、堀田くんにあんなに甘えてさ、なんて、ちょっとだけ猫にやきもちを焼く。
ふと、子どもの頃のことを思い出した。
近所の古めかしい家は猫屋敷と言われていて、たくさんの猫を飼っていた。
石神は学校の行き帰りに、よくその猫たちをかまっていた。
「おれこどものころ近所の猫とよくしゃべってたんだよね。
あいつらがなに言ってんのかわかったの。おれが話しかけるとあいつらもわかってくれたの」
足元でにゃあにゃあ言っている猫がほんとはなにを意味して鳴いてるかなんて、今の石神にはわからない。
あの頃は、おなかすいたとか、今日は雨が降るよとか、
彼らが何を言っているのかすっかりわかっていたのだけれども。
「でもそんなの夢ってか妄想だったんだよね。子どもだから思い込んでただけでさ」
石神はふっと笑った。あんなの夢だ。妄想で、思い込みだ。
あの頃の自分は幼くて、夢と現実の区別もつかなかった。
「そんなことないですよ」
堀田は猫を撫でる手を止めないまま、こちらを見ずに言った。
「そのときは、ほんとにそうだったんですよ。妄想なんて言ったらもったいないです」
まじめな顔だった。それから石神を見上げて、ちょっとだけ笑った。
やさしい目をしていた。心臓が跳ね上がって、胸が痛い。
「かえろ、堀田くん」
石神は堀田の手を取った。ぐいぐいと、自分の車まで引っ張っていく。
「ガミさん、俺の車……」
「いいの。明日もおれが送ってくから」
戸惑ってる堀田を無理やり助手席に押し込んだ。
あー、もー、この人は。これだから。
これ以上なんてないっておもうのに、いつももっと好きになってしまうから困る。
石神は運転席に座ると、堀田のほうを向いた。
「今夜は帰さないよ」
真面目な顔で言ったのに、なんでか爆笑されて不本意だ。
そこはおれにもっと惚れちゃうとこじゃないの、と思うのだけれども、
堀田の笑った顔がかわいいのでまあいいかと、石神はおもった。








2011/12/22
2011/12/20の日記より。