ふかふか愛情ブランチ








たくさん愛しあったあとの朝、椿が起きると、台所からとてもいいにおいがしていた。
とりあえず床に落ちていた服を拾い上げ、てきとうに身に付けて寝室を出ると、村越が朝食の準備をしていた。こちらに気が付いて、おう、と挨拶を寄越す。
「おはようございます」
「遅いよバッキー。ボクなんかもう、朝一番でパン屋さんにいってきちゃったよ」
村越の背中にくっつくみたいにして手元を覗き込んでいたジーノも顔を上げる。たぶん、それがジーノの今朝の自慢ごとなのだ。
「はあ、すいません」
「別に謝らんでいい。こいつはさっさと寝たから早く目が覚めただけだ」
「やだ、コッシーったら拗ねてるの? 最後まで可愛がってあげなかったから」
その発言は村越のお気に召さなかったようで、だまって体を捻ってジーノを払いのけた。
昨日の夜、椿とジーノでかわりばんこに村越の中に入った。ジーノが中にいるとき、村越は切羽詰まったみたいな、とても色っぽい顔をするのだけれど、椿がいれるともっと冷静で、こちらの反応を伺うような、すこし観察されているような、そんな気がする。自分が入れている最中の村越の表情をあまり思い出せないのは、自分が気持ちよすぎていっぱいいっぱいだからかもしれない。村越の中にいるとき、ふかふかで、あったかくて、いいにおいがして、椿はとても幸せな気持ちになる。
それで椿と村越がつながっている間、ジーノはとてもたのしそうに村越の乳首をいじってみたり、いやらしい言葉をかけてみたりしていたのだけれども、ある瞬間にとつぜん、ふっつりと、ボクもう寝るからといって眠ってしまった。そのあとはどんなに村越があられもない声を上げようが、ベッドが揺れようが、どちらかの足だの腕だのがぶつかろうが、ジーノはすやすやと安らかな寝息をたてていて起きなかった。すごい人だ。
「あーあ、コッシー怒っちゃった」
心の底をくすぐるみたいに笑いながら、ジーノがテーブルにつく。村越は黙って皿を運んでくる、載っているのはうんと厚く切ったトーストで、ジーノが買って来たものなのだろう。食パンといえばもっぱらカットされているものしかお目にかからない椿だから、たいへんな贅沢品に見えた。
「いただきます」
ひとかけ、バターをのせて、トーストをひとくちかじる。焼きたてのそれは、ふかふかで、あったかくて、いいにおいがした。村越みたいだとおもった。ふたくちめに、とろりと溶けたバターとぶつかって、やわらかい塩味が口の中に広がるのもよかった。
「うまいか」
「おいしいです」
コシさんみたいで、とは言わなかった。
「そうか」
椿の返事に、村越は満足そうに頷いた。横ではジーノが、当たり前じゃない、ボクが選んできたんだものと機嫌よさそうにしている。いい朝だ。
椿はトーストを食べながら、こっそり昨日の夜ふれた村越の身体を思い出して、すこしだけ頬を染める。ふかふかで、あったかくて、いいにおいがして。椿はたまらなく幸せなきもちになるのだ。







2011/10/22
2011/10/19の日記より。