とくべつチェリーピンク







なんでもないときでとやたらとひとに物をあげたりするジーノのことを、
こいつは物をもらい慣れているからなと思ったりするのだけれど、
今度もやはりなんの祝いごとでも返礼でも記念日でもないときに、村越はジーノに貰い物をした。
「コッシー、これあげるよ」
「なんだ」
ジーノが村越にくれるものといえば、
半分くらいはそりゃあ気が利いていて便利なもの―使いやすいデザインの栓抜きだとか、
電波式のしゃれた目覚まし時計―だ。
しかしもう半分は恥ずかしかったりはた迷惑だったりするもので、村越としては警戒せざるを得ない。
今回は、手のひらに乗るほどの大きさの、シンプルで綺麗な紙袋だった。
見た目のよさに騙されてはいけないと思いつつ、
「まあ開けてみてよ」
と言われるがままに紙袋を開く。
中からは丸っこく、ころんとしたかたちの缶が出てきた。
可愛らしいビビッドなピンク色の地に、アラベスクの模様が入っている。
「なんだこれ」
「リップバームだよ」
なんでこんなものを寄越すんだとおもいながら缶の蓋をひらく。
ふわりとただようのは、フレッシュで甘い果物の香り。
例えばキスするときに唇がガサガサしてるのが嫌だ、とかいう意味があるんだとしても、
いくらなんでもこれは使いたくない。
「いらん」
「まあそう言わずにさ。いいこと聞いたんだよ」
ジーノは村越の胸元に手を伸ばしてきた。
そのすっと伸びた美しい指におもわず見惚れる。
ひとさし指が村越のシャツの上から胸の真ん中をなぞり、横に逸れて乳首のあたりを探る。
触れられる気配に、おもわず眉を潜めた。
「ここに塗るとね、すごくいいんだって。
キミのここが瑞々しいチェリーみたいになったら、バッキーもしゃぶりがいがあるんじゃないのかな」
たしかに椿は村越の乳首を吸うのが好きだ。
セックスの最中、これでもかといいくらい吸われ、しゃぶられ、いじられる。
それこそ痛いくらいに。
たしかにそこで快感を得もするけれども、けして、けっして積極的に吸われたいわけではないのだ。
「ばか言え」
だいたいサクランボほど大きくはない、と言いたかったが、村越はぐっと堪えた。
しかしジーノはなんとなく察したのか、チェリーじゃちょっと大きすぎかな、
せいぜいブルーベリーくらいかな、などと言っている。
「コッシーの乳首がぷるぷるになったとこ、ボク見たいんだけどな。
食べちゃいたいくらい、すごくいいと思うよ」
などと甘えた声で見上げてくるので、村越はことさら厳しい顔つきになった。
かわいく見せてもだめだ。
「使うわけないだろ」
そう言いながら、村越はもらったリップバームをポケットにしまった。
「コッシーってば、素直じゃない」
ジーノに笑われるので、村越は心中複雑であった。
しかしその夜、村越はさっそくジーノにリップバームで乳首をべたべたにされ、さらに椿に吸われまくって
「いつもと違う味がする……おいしいッス」と言われ辱められることになるのであった。








2012/2/26
2012/1/19の日記より。