But Not for Me







They're writing songs of love, but not for me
A lucky star's above, but not for me




ぐちゅぐちゅといやらしい水音と荒い息づかい、それに湿った空気に満ちた部屋の中、堀田は石神に抱かれていた。
「ここさあ、すっかりおれのでゆるくなっちゃったよねえ」
石神がへらへら笑いながら、結合部をぐるりと指でなぞる。
「ひっ……ぐ、」
石神のものに散々出入りされて敏感になっているそこを不遠慮にさわられて、堀田はくぐもった声をあげた。
「そこっ……さわらないでくださ、あっ………!」
「ね、もっとしめてくんなきゃおれイケないよ。堀田のここ、ゆるゆるだもん」
一体だれのせいだと言いたい気持ちをこらえて下半身に力をこめる。
そうすると、中にいる石神の存在を強く感じて、堀田は背筋をぶるりと震わせた。
堀田ぁ、セックスしてみよっか、と軽い口調で石神に誘われるまで、
自分が男をこんなところにくわえこむことがあるなんて夢にも思わなかった。
だらしなくあられもない声をあげる自分がいることも、石神が欲しくて欲しくてたまらなくなる夜があることも、
疼く体を一人で慰めるさみしさも、堀田に知らしめたのは石神だ。
それこそ、締まりがゆるくなるまでそこにペニスを突きたてたのだって石神なのだ。
すべては石神のせいなのに、無責任なこの男ときたらまるでそんなことお構いなしだ。
「んっ…そうそう、堀田くんやればできるじゃん」
石神が堀田の髪を撫で、動きが激しくなる。
腰を打ちつけられるたび、肉と肉のぶつかり合う激しい音がして、快感の波にさらわれる。
堀田は自分に覆いかぶさっている石神の首に縋り付いた。
そうしていないと、自分を見失ってしまいそうだった。
石神ときたら、溺れる者が掴む藁程度にも役に立ちそうにないのだけれど。

一仕事終わって呼吸をととのえながら、堀田はここちよいまどろみの中にいた。
隣にはまだ石神がいる。
ほんの数分前まで堀田の体をいいように弄んでいたくせに、もう興味なさげに携帯をいじっている。
汗と精液にまみれた体を洗いたい気持ちと、一秒でも長く石神の隣にいたい気持ちで揺れる。
この男ときたら、少しでも目を離したら風船みたいにふらふらどこかへ飛んでいってしまうのだ。
こっちのことももっとちゃんと見ていてほしいし、他の誰かに興味を持ったりしないでほしい。
けど、そんなわがままを言ったらもう二度と部屋に来てくれないんじゃないかとこわくて言えない。
息を潜めて、石神がこちらに気がつくのを待つ。
いつかこの途方もないさみしさに、彼が気付いてくれるのを待つ。
こちらに背を向けている彼の目がこちらに向くのを、ただひたすら。




いつの間にか眠っていたらしい。
堀田が目を覚ますと、知らない部屋に寝かされていた。
いちおうは洗濯されたシーツの、まだなじまない硬い肌触り。
肌のあちこちに体液がこびりついた感触があって気持ちが悪い。
こんなところに堀田を連れてこられるたった一人の男は、姿が見えない。
安っぽい部屋の作りからして、石神に腕を引かれて何度か入ったことのある連れこみ宿だ。
ラブホテルじゃなくて、連れこみ宿。
男同士でも入れるそれ。
ちゃらちゃらしたとこより堀田はこういうとこのほうが似合うから、とわかるようなわからないようなことを言っていた。
黄色くなった畳、スイッチを入れても薄暗い電灯、布団はぺらぺらで硬い。
この安宿の一室で男に抱かれるのがお似合いの自分は、一体彼にとってどんな存在だろう?
それも、こんなところでひとりで置き去りにされて。
でも、あの気の抜けた声で、堀田ぁ、と名前を呼ばれたらなにもかもどうでもいい気持ちになってしまう。
我ながら簡単なものだ。
膝を抱えた堀田が目頭をおさえていると、廊下から何人かの足音が聞こえてきた。
「あーここだ」
石神の声。
部屋のドアがばんと開かれ、石神と、それから何人かの見知らぬ男が入ってくる。
「あ、起きてる。げんき?堀田くん」
「ガミさ……」
そのひとたち、だれ?
聞きたかったけど、聞けなかった。
一体どうやってここまで連れてこられたのやら、堀田はほとんど服を着ていない状況で、
この場所で今から何がおこるのかもわからなくて、ただ怯えた。
「ね、こいつら、最近知り合ったんだけど、堀田くんのファンだって」
呼ばれた男たちはにわかに緊張した面持ちでこちらをみていた。
二十歳そこそこくらいのまだ幼い面立ちの、どこにでもいそうな青年たちだ。
機嫌の良さそうな表情の裏で、石神がなにを考えているのかわからなくて怖い。
布団にくるまったままの堀田に、石神はじわりと近づいてきた。
なにを考えているのか読めない表情で、じっと顔を覗き込んでくるから、目をそらせない。
そして彼は甘く、悪戯っぽく耳もとでささやいた。
「おれさあ、堀田くんが他の男とやってるとこが見たいな」
彼はにこにこと楽しそうに笑っている。
この男は、堀田がなにを言われても拒めないことを知っている。
そしてまた、堀田はけして彼の求めるものに抗えない自分を知っている。
拒否して興味をなくされるのが怖いなんて打算だけではない、不思議な引力が、堀田を石神のほうへ引っ張る。
ぐちゃぐちゃにされるのを恐れる反面、そうなることに気持ちよさも感じている。
「は……い、ガミ、さ…………」
泣きそうな顔で堀田が頷いたのを、石神は面白そうにながめていた。
「いい子だなあ、堀田くん」
石神は堀田の髪を、飼い犬にするみたいにくしゃくしゃと撫でた。
その乱雑な仕草をなぜかやさしく感じて、堀田の胸は甘くしびれたのだった。




好きでもない、名前も知らない男たちに、堀田は思いの外抵抗なく肌を許した。
へらへらと読めない表情で笑う石神の監督のもと、連れてこられた男たちは服を脱ぎ、堀田に触れた。
いいのかな、と顔を見合わせ戸惑いながら堀田を犯す彼らもまた、石神の気まぐれの被害者のようだった。
素直に足を開いて受け入れれば、怖がることはなにもない。
石神が言うから、見られているから、こうしているのだと思えば、なんだってかまわなかった。
堀田は自分の一番深いところまで、名前も知らない男たちに許した。
全く気乗りはしなかったけれども、面白そうにこちらを見ている石神の視線を意識すれば、不思議とそれなりに感じもした。
彼らのうち、一人はこの異様な状況に緊張しているのか、まったく勃っていなかった。
それに気が付くや否や、
「しゃぶってあげなよ、堀田くん」
と、石神の無責任な指示が飛ぶ。
後ろから突っ込まれたままで、男の股間に顔を埋める。
まだやわらかくぐにゃりとした肉の塊を握り、ゆっくりと頬張る。
それは石神のものより大きいけれども、まだ皮膚がきれいな色をしていた。
石神のものだったら、大きさも色も感触も、鮮明に覚えている。
口の中よりも、堀田の中にいるときのほうが、ずっと大きく彼の存在を感じる。
堀田くんはお口が上手、と石神は笑って、堀田にしゃぶらせるのが好きみたいだけど、
堀田は彼に抱かれて全身で彼を感じるのが好きだ。
そんなこと、石神にはきっとどうでもいいのだろうけれども。
知らない男のぺニスは、当たり前だけど知らない味がした。
舌を大きく使って幹を舐め上げ、裏筋を刺激する。
それから頬に力を込めて吸い上げると、男はうああ、と驚いた声を出してすぐにそこを硬くした。
乗り気じゃないときの石神よりずっと簡単で、なんだか堀田は可笑しくなった。
「ほっ、堀田さ……!!」
「どう?憧れの堀田くんにちんこしゃぶってもらう気分はさ」
「すげえ……堀田さんまじすげえッス」
傍観に徹している石神がなにやにやしているのが目に浮かぶ。
目の前には男のぺニスと、せいぜい陰毛くらいしか見えないのだけれど。
強弱をつけて刺激し、口の中で扱くようにしてやると、
男は堀田の持ち前のテクニックにおもしろいくらいに反応を示し、情けない声を上げながらあっという間に達した。
すっかり慣れてしまった青臭いぬめりを飲み込み、軽く口元をぬぐう。
この男をいかせるのなんか、赤子の捻るよりも簡単だった。
石神をその気にさせるほうが何百倍も難しい。
なんだってこんなことしてるんだろう、どこか白けた頭で、受け入れたものが自分のなかを掻き回すのを感じていた。
感じる部分を刺激されれば、快感はあるし声も漏れる。
けど、どこか冷めた気持ちで犯されていた。
石神に抱かれるときの我を忘れるような興奮には、結局最後まで出会うことはなかった。




もう一度堀田が目を覚ましたとき、部屋はしんとしていた。
男たちが満足して、石神がそれに納得して、堀田はほとんど失神するように眠ってしまったのだと思う。
自分が最後にどうしたのか、ちっとも覚えていない。
体が気怠く男たちと自分の体液にまみれたままなことはわかっていた。
石神が体を清めてくれるなんてことはありえないし、そうされたくもなかった。
倦怠感の残る体を叱咤し、腕に力をこめて起き上がると、石神もまた黄ばんだ畳に寝転んでいるのが見えた。
石神は静かに眠っているようだった。
やすらかに寝息を立てている石神は、ひどいことをしたり言ったりしない。
その代わり、堀田を快感の奈落に突き落とし、どうしようもなく夢中にさせることもしない。
相手が自分をどう思っているのかわからない。
それ以上に、自分が相手をどう思っているのか、彼とどうなりたいのかわからない。
こんな関係、澱んだ水溜りみたいなものだ。
流れ着く先などなく、濁ったままただ停滞し続ける。
なぜ自分はここから抜け出したくないのだろう?
堀田は深く息を吐いた。
「堀田ぁ?」
石神も起きているらしい。
外はもう太陽が随分高い場所にあり、小さな窓から入る日の光が部屋の中に濃い影を落としている。
いつもなら練習に励んでいるような時間に、いったい自分はなにをしているんだろうかと可笑しくなる。
「おきてんの」
肘をついてずるずると体を寄せて、堀田の裸の胸元に遠慮なく触る。
昨日の男たちに付けられた噛み痕をひっかき、腕を回して体を重ねてきた。
石神のやわらかいTシャツ越しのぬくもりがなんだかもどかしい。
「今目が覚めたところです」
「ふうん。ね、あいつら、どうだった?」
「どうって……」
なんとも答えようのない質問だった。
石神以外の男に抱かれたって気持ち良くもないし、どうでもいい。
堀田には、石神だけだ。
男の味を教えたのも石神なら、堀田の気持ちを揺さぶることができるのも石神だけ。
そんなこと全部知っているはずなのに。
「気持ちよかった?堀田、いつもより声でてたじゃん」
「そんなこと……」
そんなふうにからかって、傷つけないでほしい。
濁りのないまんまるの瞳で見上げてこられたら、逃げ場もなくなる。
昨日のことなんかもうどうでもいいから、こんな問答はいますぐ終わりにして抱いてほしい。
「おれは……、ガミさんにされるほうが、いい、です……」
切れぎれの言葉はどうしようもない本心だった。
こんなこと言いたくなかった。
羞恥心と後悔がどっと押し寄せてきて、堀田は石神の頭を抱き寄せた。
絶対にこんな顔見せたくなかった。
「……おれさあ、堀田はこんなのやだって言うと思ってたよ」
堀田の胸板に頬をすりつけながら石神が言う。
その一言をなぜだか嬉しく思ってしまう。
だから堀田は相変わらず、この心地良い温室で腐りはてるのをやめられそうになかった。








2010/5/30
自分の本命ではえろが書けないのに、なんかガミホタはスラスラ書けた!
自分の本命ではろくろくお話がかけないのに、なんかガミホタはスラスラ書けた!
というわけでびっくりするくらいエロくないエロのあるガミホタです。
堀田さんに関しては三点リーダを自重しなくていい気がしますね。
携帯で書いてたときの仮題は「ひどいおとこいしがみたつお」でした。