Aint' Misbehavin'







お互いが達したあとの、妙に頭が冴えたような時間、ジーノはいつも「きみはとてもすてきだ」などと言って村越の髪や肩を撫でる。村越はそれが心地よかったり、気恥ずかしかったり、すこし鬱陶しかったりする。
今日の村越は機嫌が悪かった。悪かったのに、そのままベッドに雪崩込まれて、結局はジーノのペースに押し切られてしまった。そのことを思い出して、村越は耳たぶを弄るジーノの指を払いのけた。
「どうしたの、コッシー」
「……べつに」
「べつにじゃわかんないよ。不満があるなら言葉にしてくれなきゃ。ボクとしてきもちよくなかった?」
確かに気持ちよかったし、言わないわからないというのももっともだ。でも村越はきゅっと唇を引き結んで、寝返りを打ってジーノに背を向けた。ジーノが村越の部屋に勝手に設置したキングサイズのベッドはとても広くて、遠ざかってもベッドから落ちたりしない。
「もー、コッシーってば」
肩の上にのしかかるようにして、顔をみようとしてうる。
「ボクがここに来るまえに、女の子と食事してきたのがそんなに気に入らないの」
ジーノはストレートに、自分から切り出してきた。村越がちょうど思い出していたのはそのことなのだ。おととい、明日はオフだから遊びにいくねと言ったのはジーノなのに、待てど暮らせど部屋にやってこなかった。夜になってようやくやって来たかと思えば、女物の香水の匂いをさせてきた。
「彼女はただの友達だよ」
ジーノは嘘はつかないから、本当に友達なのだろう。でも、なんとなく気に入らない。自分を待たせておいて女と会っているのが気に入らないし、気に入らないとおもってしまう自分にも腹が立つ。結果として村越はこうして大人げなくぶすくれてみることしかできないので、それにもまた癇癪を起こしそうになる。
「ねぇ、コッシーってば。こっち向いてよ」
村越の体に自身の体を重ね、ジーノはたのしそうな声を出す。村越が拗ねているのが可笑しくてたまらないのだろう。
「キスしてあげるから機嫌直して?」
からかうようにくすくす笑う。それに乗っかれたら楽なのだろうけれど、なんとなくプライドが邪魔をしてできない。
いつも余裕そうにして、なにを考えているのかわからない。それが彼といて居心地のいいところでもあるのだけれど、今は許せない。
焦ったところを見てみたいという欲求が頭をもたげる。
「キスじゃ足りないなら、なんでもしてあげるからさあ、コッシー?」
唇の動きを楽しむように間延びした声で名前を呼ばれる。村越はジーノのほうに向き直ると、なんでもするって言ったな、と真面目な顔で確かめた。
「フフッ、言ったよ。何して欲しい?」
とても楽しむようにジーノは首を傾げる。吐息が頬に触れるほどの距離で目を合わせると、ジーノの瞳がいたずらっぽく美しく輝いていた。
「尻出せ」
村越が低く、短く言うと、さすがのジーノも面食らったようだった。
「ええー、いいけど。ボク準備なんにもしてないよ」
「いいから」
ジーノは自分の下半身に乗っかっていた布団をごそごそとどけると、うつぶせに寝転がった。白くて丸くて均等に肉のついた、美しい尻が丸見えになる。
「これでいい?それとももっとちがうポーズがいい?」
ジーノがちらりと村越を見る。
これからなにが起こるのかという期待と好奇心を隠そうともしていない。
村越はきゅっと引き締まったジーノの尻に手を当てた。派だがすべすべして触り心地がよい。双丘のかたちはよく手に馴染むようで、するすると何度も撫でると、ジーノがくすぐったいよと笑う。
「がまんしろ」
手触りがきもちよくて、ついでに頬擦りしてみる。ちょっぴりひんやりする。この尻が、試合中のジーノの美しいプレー、素晴らしい足元のパフォーマンスを支えているのだと思うと、たいへん大事な尻に思える。ずっと撫で回していると、どうやら我慢できないらしく、爪先を開いたり閉じたりせわしなく動かしていた。そこだけがなにか新しい生き物みたいだった。
「コッシー、それって焦らしてるの?」
ジーノが少し濡れた声で問う。返事はせず、代わりに思い切り盛り上がった白い肉に噛み付いてやった。
「ちょっ……! 痛い! 痛いよコッシー!」
ジーノは色気もなにもない声を上げた。大きくてやわらかい肉に歯がめりこむ感触に、獲物を捕えた野生動物みたいな気持ちになる。
ジーノが足をばたつかせて嫌がるので、村越はようやく離してやった。ジーノは歯型のついた尻を撫でながら、唇をとがらせる。
「なにするのさ」
「尻を叩くより効果があるって聞いたから」
「それ、こどもの躾でしょう。恋人同士ですることじゃないよ」
ジーノは拗ねた声を出した。相当痛かったらしく、眉間に大きな皺が寄っている。村越が寝っ転がって布団を直していると、ジーノはちょっと見てくる! と言い置いて部屋を出て行った。村越はいい気味だ、とちょっとだけ笑った。
すぐに戻って来たジーノは、今度は機嫌よさそうににこにこしていた。
「いいね、これ。コッシーのやきもちの証拠」
ジーノは満足げな声を出し、ベッドにするりと入りこんで村越を抱きしめた。村越は今更ながらに後悔したけれども、時すでに遅く、その後しばらくこの噛み痕のことで村越は何度もからかわれたのだった。








2011/10/22
2011/10/6の日記より。
じのこしデー記念。